やってみる
Learning by Doing
という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは、アメリカの哲学者であり教育者でもあったジョン・デューイ(1859-1952)が提唱した考え方と言われています。
Learning by Doingの学習スタイルでは、
何かを学ぶ時は、学習者と周囲の環境との相互作用が重要だ、ということです。
このスタイルの学習は、Hands-on Learningとも言われます。
Hands-onとは、実践の、実地のという意味です。
我々が慣れ親しんできた勉強法では、本 / 教科書を読む、といったインプットに重きが置かれてきました。
この場合、学習者は周りの環境と積極的には相互に作用してないと言えます。
Learning by Doingは、従来の学習法を否定しているというよりは、
もっとアウトプットも必要だよね、という提案だというのが私の捉え方です。
簡単に言うと、何かを学ぶ時は、実際に試しつつ積極的に周りに働きかける、というスタイルのことだと認識しています。ここでの周りというのは、デジタルな意味での周囲環境も含みます。物理的に近い範囲の周辺という意味にとどまりません。インターネットをはじめとするテクノロジーの発展で、「周り」は世界中に広がっていると思っています。
今日は、私なりのLearning by Doingスタイルのメリットを5つ紹介しようと思います。
Learning by Doingの研究は幅広く行われています。
ここでのメリットは通説というよりは、私が自分でLearning by Doingを試してきて実感したメリットです。
学習効率が良い
1つ目は、
学習の効率が良い
ということです。
インプットに加えアウトプットを意識しつつ、学習を進めるLearning by Doingでは、
多くのことを深く学べると思います。
アウトプットの意識が強くなればなるほど、インプットの重要性に気が付きます。
これは、そのまま
インプットの質の高さにつながります。
インプットをゴールだと捉えていると、どうしてもインプットが甘くなると感じています。
例えば、
英語学習で、
この単語を5つ覚えよう
という意識で繰り返し取り組んでいくことと
この単語5つを、今週の英会話で必ず使ってみよう。3回以上は使ってみよう
という取り組みを比べると、後者の方が記憶に残ります。
私の場合は、そうでした。
単純に単語に触れる回数は、前者の単語だけ見る、という学習スタイルの方が多いのですが、なかなか使える知識になりません。一方で会話の中で実際に使うというアウトプットに注力すると、
- 実際に使ってみて、その使い方は違和感がある。もっとこうした方がいいというフィードバックをもらったという経験
- 会話の相手が、言い換えで類義語や対義語を使ったため、自分で使った該当単語と関連付けられる
- どんな会話で単語を使えたのか、その単語と一緒に使えそうな単語にはどんなものがあるのか理解できる
などの点から、単語が記憶に定着しやすいです。
ここでは、会話という形式が重要というよりは、
単語を確認するというインプットだけでなく、
会話で使うというアウトプットを重視して、
相手の反応とともに周囲の情報も学習している
ということにポイントがあると思っています。
まさに、Learning by Doingの原理ですね。
自分を知ることができる
2つ目は、
自分のことを把握する機会がある
です。
アウトプットや周囲との相互作用を考えて学習していくと、
学習者それぞれの特徴が出てきます。
本の読み方の個人差
と
文章の書き方の個人差
を比べると分かりやすいと思います。
アウトプットする時の方が、自由度が高く、それぞれのオリジナリティが出ます。
学習者が自然と、自分の特色を理解できます。
自分には創造性があまりないのでは?と考えていても、
プログラミング入門の本を読みつつ、自分で手を動かしてプログラミングのコードを書いていくうちに、色々と試してみたくなり、最後には本のサンプルコードが見る影もないということがあります。
こういう体験を通して、実は試行錯誤を繰り返したいタイプ、さらには創造性を発揮できる分野もあるかも、というように自己理解につながっていくと考えています。
Learning by Doingを続けて行くと、学習する分野ごとに、自分を知ることができるのでお勧めです。
例えば、
- 英語学習では、インプットのとおりアウトプットしようとする傾向がある
- プログラミング学習では、アウトプットを我流にする傾向がある
と分かれば、漫然と自分のことを考えるよりも、具体的に自分のことが理解でき、意思決定が必要な場面で、重要なよりどころになるのではないでしょうか。
クリティカル・シンキングが身につく
3つ目は、
クリティカル・シンキングが身につく
です。
クリティカル・シンキング、批判的思考ですが、色々な意味を持っています。
ここでは、インプット情報を鵜呑みにせず、有効に活用するため、色々な視点や情報を検討しつつ、自分で考えること
というくらいに捉えます。
Learning by Doingでは、クリティカル・シンキングが鍛えられます。
アウトプットや周囲との相互作用を通してフィードバックが得られるためです。インプット情報が正しいか、ということがフィードバックから学べます。
ここで言っている「正しいか」というのは、今の自分にとってという意味です。
単純な例で言えば、
- たったこれだけのフレーズで英会話は成立する、と教材で学んだ → 実際に会話で試してみる → その教材の合っている部分と間違っている部分が理解できる
- この副業は、絶対にお勧め → 試してみる → 自分で再現可能な部分と不可能な部分を把握できる
という形です。
こういった、自分で試して試行錯誤する流れがあるLearning by Doingでは、必然的に自分で結果を見ながら、考えることになります。
結果的に、インプット情報に接したときに、
全てそういうものだ
と思考停止で受け止めるのではなく、
- 今の自分に有効な情報はどの部分か
- 他の視点はないのか
といったクリティカル・シンキングの基本が身についてきます。
この点からも、Learning by Doingはお勧めです。
活用しやすい知識やスキルが獲得できる
4つ目は、
学習者がその後も活用しやすい知識やスキルを獲得できる
ということです。
- 学生であれば、卒業してから
- 社会人であれば、今後の活動で
実際に自分が使いやすい知識やスキルが、Learning by Doingを通して獲得されていきます。
ここには2つの側面があります。
重要なポイントが自分で理解できるようになる
1点目は、Learning by Doingの1つ目のメリット「学習の効率が良い」とも関係しますが、
今後に活かせそうな重要ポイントが自分で理解できてくる
ということです。
これは、どういうことかと言うと例えば、
英語学習に取り組んでいて、英文法の専門用語を知ったとします。もちろんそれらを把握することは重要です。それらの理解をもとに英会話をに取り組んでいくうちに、
Collocation
が非常に重要だと気が付きます。というよりは、身をもって知ることになります。
Collocation (連語)というのは、
普通この単語は、別のこの単語と一緒に使うよね
という単語の自然な組み合わせのことです。
分かりやすく日本語で言うと、
- 帽子をかぶる(〇)
- 帽子を着る(×)
- 問題を抱える(〇)
- 問題を抱きしめる(×)
といったイメージです。上記の例は、語学の観点から厳密なCollocationの定義からは外れるかもしれませんが、自然な単語の組み合わせ、というものが存在しているということです。
通常、英語文法や単語の学習で、それほど強くCollocationの重要性は言われていないと思います。実際に英会話を続けて行くと、このCollocationの重要性ははるかに高いことがわかります。
というように、重要ポイントが分かってくるので、自然とそのあとも抑えておくとよい知識やスキルが自分に蓄積されていきます。
Learning by Doingの学習スタイルそのものが身につく
2点目は、Learning by Doingの学習スタイルそのものが自分の知識、スキルとして身について、それを今後活用できるということです。
我々の生活では、学校を卒業したら学びが終わる、ということは通常あまりありません。生涯で学習の機会は多くあります。その時に、Learning by Doingはとても有効です。
一般的な学校教育以外の場面で、学習しようと思った時に、Learning by Doingの学習スタイルで取り組むと、非常に学びやすいと思います。
理由は、ここまで紹介してきたことと関連して、
自分の特徴にあった教材を自ら選びつつ、
批判的に自分で考えて(クリティカル・シンキング)、インプット、アウトプット、周囲との相互作用を続けていける
ためです。
特に学校教育以外では、学習者一人ひとりの置かれている状況が多様です。
その状況下で、Learning by Doingの学習スタイルの特徴が有効に働くということです。
以上のように、
- 学習の肝となる点を自分に蓄積
- Learning by Doingの学習スタイルそのものを身につけていく
ことを通して、学習者がその後の人生でも活用しやすい知識やスキルを獲得できると言えます。
失敗できる意識を持つことができる
5つ目は、
失敗することへの抵抗感を減らせる
ということです。
簡単に言うと、
失敗しても良いよね
と思えるようになるということです。
Learning by Doingでは、インプットにも増してアウトプットや周囲との相互作用に意識を持っています。
結果的に、
- ある程度のインプットが済んだら、アウトプットに向かう
- 合っているか間違っているか分からないことを、周囲との相互作用で確かめる
- フィードバックを得つつ、インプットの信憑性を判断
という場面が多くなります。
間違いや失敗は多くなります。
70%や80%の理解でアウトプットすることもあるので、当然です。Learning by Doingでは、アウトプットや周囲との相互作用を通して、残りの30%、20%を補完していくイメージです。
その過程では、
- 間違いを指摘されるというフィードバックを得ること
- 自分の理解の大きな間違いに気が付くこと
などを経験できます。
Learning by Doingの過程で、これらを繰り返していくと、自然と
間違いや失敗は、当然ある
という意識になってきます。
この、
失敗できる意識を持つことができる
というのは、変化の激しい現代社会を生きる上で、とても重要だと思います。
環境の変化に伴い、自分がそれに適応していく必要があるということも多いですよね。
失敗を過度に恐れると、変化に対応しにくくなります。
この環境変化への対応、どこかで聞いたと思いませんか。
そうです、
Learning by Doingでの、周囲の環境との相互作用が重要という視点
に通じるものがあるのです。
Learning by Doingの学習スタイルで色々なものに取り組んでいくと、
自分(学習者)と周囲(環境)の関係から多くを学びます。
その過程で、周囲との関わりにおいて、
過度に失敗を恐れず、アウトプット、フィードバックを通して、多くを学んでいく=環境に適応していく
という姿勢が身につくと思います。
とりあえず、やってみる
今日は、Learning by Doingの学習スタイルを紹介しました。
やってみせ
言って聞かせて
させてみて
ほめてやらねば
人は動かじ
は、山本五十六の言葉です。
この、
やってみせる → 説明する → 実践してもらう → ほめる
というプロセスは、
自分が実践できることを見せる → 学習者に対して説明する(学習者から見るとインプット) → 実践してもらう(学習者からみるとアウトプット) → ほめる(フィードバック)
という対応があり、まさにLearning by Doingだと考えています。
つい先日もLearning by Doingの重要性を再認識する出来事がありました。
2020年12月9日(アメリカ現地時間)のイーロン・マスク氏率いるSpaceXによる宇宙船Starship SN8の飛行試験です。
SpaceXは2020年11月に、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんがISS(国際宇宙ステーション)に行くときに、使用した宇宙船とロケットを開発した会社として記憶している人も多いと思います。
Starship SN8の飛行試験では、SN8が離陸から高い高度まで飛行を達した後に、地上に再び着陸する予定で実施されました(高高度飛行試験)。
この試験は、映像で確認できます。
宇宙船が、離陸後垂直に高度を上げていき、最後の着陸の際に地面に激突し爆発する様子が映像からわかります。
この飛行試験の、宇宙船着陸失敗に対するイーロン・マスク氏のリアクションが、失敗に対する障壁の低さ、フィードバックを得ることの重要性を物語っています。
飛行試験直後に、
我々が必要なデータは、すべて取得できた
おめでとう!SpaceXのチーム
という内容の発言がTwitterでありました。
失敗というフィードバックを、具体的に次の行動に生かすループができている。
この姿勢からは、本当に学べることが多いと思います。
その後のTwitterへの投稿で、
サウステキサス、支援ありがとう!これが火星への道だ
と言っています。(サウステキサスは、飛行試験が行われた場所です)
宇宙船Starship SN8は、月や火星への有人飛行に使用することを視野に開発が進められています。
SpaceXは、航空宇宙産業で野心的な取り組みを数多く行っています。
人類のフロンティアに挑む領域でもLearning by Doingの有用性を知ることができます。
ここまで見てきたようにLearning by Doingは、
無数にある学習法の中でも、非常に強力で、変化の激しい現代に合っている学習スタイルだと思います。
気になった人は、一度試してみてください。
きっと、今日紹介した、
- 効率が高い学習法
- 自分を知る助けになる
- クリティカル・シンキングの訓練になる
- その後の人生で使いやすい知識やスキルが獲得できる
- 失敗に対して寛容になる
などの効用を実感できるはずです。
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